大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1820号 判決 1970年5月27日

控訴人

指定代理人

検事

森脇郁美

外一名

被控訴人

江間忠木材株式会社

訴訟代理人

小幡良三

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述ならびに証拠の関係は、次に付加するほか、原判決の事実摘示と同しであるから、これを引用する。

(控訴代理人の陳述)

一、原判決は、抵当権実行のためにする不動産競売手続において配当異議訴訟が提起された場合、裁判所は民事法訴訟法六九七条、六三三条の規定により配当を実施すべきではなく、この場合には同法六九七条、六三〇条三項の規定の準用があるから、これによつて処理すべきものとしている。しかし、大審院は競売法による競売について、配当に関する民事訴訟法の規定は準用されないとしてきたものである(大判昭和一六年一二月五日民集二〇巻二四号一四四九頁参照)。なるほど、原判決引用のごとく、最高裁判所は、抵当権実行による不動産任意競売手続において配当表が作成された場合、異議のある抵当権者は配当表に対する異議の訴訟を提起し得るものと判示している(最判昭和三一年一一月三〇日民集一〇巻一一号一四九五頁)。しかし、すでに述べたとおり、右判決が配当に関する民事訴訟法の規定を競売法による競売に全面的に準用すべきであるとするものか、あるいは異議訴訟は異議ある抵当権者が自己の受けるべき配当金額等の確認を求める確認訴訟であるとするかは、判文上必ずしも明らかではなく(最高裁判例解説民事篇昭和三一年度解説番号91参照)、未だこれによつて大審院の判例が右最高裁判所の判決により、変更されたとみることはできない。

元来、競売法による任意競売の目的は、目的物を公平に換価することにあり、換価の結果である売得金は客観的に受領権を有する者に交付すべきものであるにとどまるのであつて(競売法三三条二項)、売得金の配当に関する手続には民事訴訟法の規定の準用がないと解するのが正当である(判例民事法昭和一六年度九〇号事件参照)。したがつて、不動産任意競売において、他の抵当権者から配当異議の申立てがあつても、民事訴訟法六三〇条三項の規定の準用はなく、競売裁判所は異議ある債権の配当額を供託する義務を負わないということができ、さればこそ、実務上の運用としても、多数の裁判所において異議ある債権の配当額を供託することなく、単に保管しているのである。

二、原判決は、異議ある債権の配当額を供託すべきものと解する以上は、実際上の取扱いいかんにかかわらず、裁判所に過失が存しないと解することはできないとしている。しかし、右前段から直ちに後段の結論を引き出すことは到底控訴人の承服しえないところである。不動産任意競売手続において、民事訴訟法六三〇条三項の規定の準用があるか否かについて法律解釈が分れていること、および現在の実務の大勢は同条項の規定の準用がないとの解釈にしたがつて運用されているのが実情であるから(司法研修所調査叢書七号執行法に関する諸問題五五六頁参照)、かりに原判決のごとく右規定を準用すべきであるとしても、本件において競売裁判所が慣行とされている従来の取扱いにしたがい非準用説の立場にたつて供託しなかつた点に毫も過失はないというべきである。

(被控訴代理人の陳述)

一、控訴人援用の大審院判例(大判昭和一六年一二月五日)は、「民訴法六三三条、六三四条の適用なし」とするが、これを評釈する学者(兼子一、判例民事法昭和一六年度九〇号事件参照)は、「関係人間に異議がなければ、これによつて売得金を交付するが、もし争いがあれば、その部分は受領権者を確知し得ぬものとして供託し」として、異議ある場合の処置について論じている。したがつて、右判例の態度にしたがつたとしても、本件売得金はこれを供託すべきものであつたのである。

二、最高裁判所の判例(最判昭和三一年一一日三〇日)は、「抵当権の実行による不動産競売手続において配当表が作成せられた場合、異議ある抵当権者は本件の如く抵当権者相互間の抵当権の存否……を主張して配当表に関する異議の訴訟を提起しうるものと解するを相当とする。蓋し、かかる訴を提起しうると解することは何ら競売法の精神に反するものとは認め難いし、かつ右の如く異議ある抵当権者の不服方法を単に手続終了後における不当利得返還の請求だけに限定すべき法理は存しないからである。」と述べ、明らかに配当異議訴訟の提起を容認している。してみれば、原判決説示のとおり裁判所は民事訴訟法六九七条、六三〇条三項の規定により配当を実施し得ず、これを供託しなければならないこともまた明白である。

三、民事訴訟法六三〇条三項が昭和四一年法律一一一号によつて改正されなかつた理由は、不動産競売においては動産競売と異なり、その競落代金が多額になる場合が多く、真実の権利者は仮に直ちにこれを使用しえたならば、それ相応の利潤をあげうるにもかかわらず所定手続完了まで該金員を受領しえない点にかんがみ、若干の利息が加算される供託制度をそのまま存置したのである。右の理論は不動産任意競売手続においても何ら異なるものではない。ここに不動産任意競売手続において配当につき異議ある場合、民事訴訟法六三〇条三項を準用すべき実質的根拠がある。

四、裁判所としては常に法律の研鑽に励み、その正しい適用、運用をなすべき職責を負うべきものであるところ、不動産任意競売手続における競売代金の配当につき民事訴訟法の配当表に関する規定を準用すべきであるとする多数の大審院判例および最高裁判所判例が存する以上、競売法に民事訴訟法六三〇条三項を排除すべき実質的根拠はどこにもないのであるから、右にもとづき競落代金を供託しなかつたことは明らかに過失があるといわねばならない。ことにその取り扱いに関して幾多の疑問のある本件の場合においては尚更のことであり、法令違反の慣行にしたがうこと、その自体につき過失があるものと考える。

理由

一請求の原因第一項ないし第四項の事実および同第五項のうち本件競売裁判所たる浦和地方裁判所の裁判官(以下、浦和地方裁判所という)が被控訴人に対する配当額九六三万七、九九一円を供託することなく、そのまま保管していた事実は当事者間に争いがない。

二当裁判所も、抵当権実行のためにする不動産競売手続において配当表が作成され、その記載を不服とする抵当権者より配当異議訴訟が提起された場合に、競売裁判所としては民事訴訟法六九七条、六三〇条三項の規定を準用し異議ある債権の配当額を供託すべき義務があるものと解すべく、したがつて本件競売裁判所たる浦和地方裁判所が被控訴人に対する配当額を供託せず保管していたのは違法な措置であつたと解するところ、その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決がその理由第二項に説示するところと同じであるから、これを引用する。

1  原判決七丁表八行目ないし一一行目に、「解すべきことは当然であり(右規定の準用がないとする被告引用の昭和一六年一二月五日大審院判決は前記最高裁判所の判例により実質的に変更されたものと解する)」とあるのを、「解すべきであり」と訂正する。

2  同丁裏二行目に、「解すべきことも亦多言を要しないから」とあるのを、「解すべきであるから」と訂正する。

三右に述べたとおり本件競売裁判所たる浦和地方裁判所が異議ある債権の配当額を供託することなく保管したままでいたのが違法な措置であるとしても、国家賠償法は、公権力の行使にあたる公務員が、その職務執行にあたり故意または過失によつて違法行為をしたことをもつて損害賠償責任発生の要件としているため、次に右裁判所が前記のごとき措置をしたことに故意または過失の責任があるか否かを検討する。

抵当権実行のためにする不動産競売手続を規定する競売法には、配当手続に関して特別の定めをしていないため、右配当手続に関連して生ずる問題の解決はもつぱら法の解釈運用にゆだねられている。この点に関する大審院当時の判例の態度は明確を欠くものがあり、配当手続に関する民事訴訟法の規定の準用があることを前提とするもの(たとえば大審院昭和八年五月三〇日判決民集一二巻一三八一頁)、その準用がないことを前提とするもの(たとえば大審院明治四〇年九月二五日判決民録一三輯八八六頁、同院明治四三年一一月二五日民録一六輯七九五頁)とに分かれていた。しかるところ、最高裁判所昭和三一年一一月三〇日第二小法廷判決(民集一〇巻一一号一四九五頁)が、「抵当権の実行による不動産競売手続において配当表が作成された場合、異議ある抵当権者は、抵当権者相互の抵当権の存否、順位、被担保債権の範囲、並びに競売手続において配当を受くべき金額等を主張して配当表に対する異議の訴訟を提起し得るものと解するを相当とする。」旨の説示をしたため、その限度において法解釈が明らかとなつたが、その余の場合につき配当手続に関する民事訴訟法の規定がいかなる範囲にまで準用されるべきかは明らかでない(たとえば最高裁判所昭和四三年六月二七日第一小法廷判決民集二二巻六号一四一五頁参照)。本件で問題とされている異議ある債権の配当額につき民事訴訟法六九七条、六三〇条三項の規定が準用されるかどうかについても、従来この点を直接または間接に明示した判例ないし通説とみるべき学説も存在しない。もつとも、当裁判所が右規定の準用ありと解すること前記のとおりであるが、元来民事訴訟法六三〇条三項の規定(昭和四一年法一一一号による改正前のもの。以下これに同じ)は、同法五九三条、六二六条によつても知られるとおり、執行吏が有体動産の売得金または差押金銭を所持する場合に、別個の執行機関たる執行裁判所で配当手続が行なわれることを予定しているものであるため、不動産の売却代金を執行裁判所が所持している強制競売または右代金を競売裁判所が所持している抵当権実行のための競売において、同一の裁判所で配当手続が行なわれる場合にもそのまま適用ないし準用されると解すべきかについては疑義の余地があり、なおこの点に関する全国裁判所の取扱いは審かでないが、成立に争いのない乙第一、二号証によると、少なくともかなり多数の裁判所で前記規定の準用がないとの立場をとり、異議ある債権の配当額を供託することなく単に保管したままでいることを窺い知ることができる。

本件競売裁判所たる浦和地裁判所がいかなる立場から被控訴人に対する配当額を供託せず保管したままの状態においたかは明らかでないけれども、その結果からみると、右裁判所は抵当権実行のためにする不動産競売手続に関しては民事訴訟法六九七条、六三〇条三項の規定が準用されないものと解し、その解釈にしたがつて配当額保管の措置をとつたものと推認するほかはないが、前示のごとく右規定の準用の有無に関する先例的判例および通説的な学説がなく、これをいかに解すべきかに疑義があり、積極、消極両説が考えられる場合に、競売裁判所が事件の処理にあたり右の規定を準用すべきでないと解し、その解釈にもとづく措置をとつたとき、後日その解釈ないし措置が違法であると判断されても、単にそれだけで競売裁判所に故意または過失ありとすることはできない。

してみると、本件競売裁判所たる浦和地方裁判所のした右措置が同裁判所の故意または過失にもとづく違法な行為であることを前提とする被控訴人の主張は理由なしとするほかはない。

四よつて、以上と異なる見解のもとに被控訴人の本訴請求を認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法三八六条に則り、これを取り消したうえ、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。(多田貞治 上野正秋 岡垣学)

<参考=原審判決の主文、事実及び理由>

主文

被告は原告に対し金六三万六〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年八月四日から支払ずみとなるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

「一、訴外明和産業株式会社(以下明和産業という)は訴外村瀬利一より別紙物件目録記載の土地につき債権極度額二五〇〇万円の根抵当権の設定を受け、浦和地方法務局川口出張所昭和三八年八月二三日受付第二〇三七六号をもつて根抵当権設定登記を経由し、また訴外奥川商工株式会社(以下奥川商工という)より別紙物件目録記載の建物及び附属機械設備につき債権極度額五〇〇万円の根抵当権の設定を受け、同出張所昭和三八年八月二六日受付第二〇六〇九号をもつて根抵当権設定登記を経由していたところ(債務者はいずれも奥川商工)、明和産業は浦和地方裁判所に対し右各物件につき根抵当権の実行のため競売の申立をし(右土地につき昭和三九年(ケ)第五九号、右建物等につき同年(ケ)第七二号)、同裁判所は右各物件につきそれぞれ競売開始決定をした上一括競売に付し、右物件は昭和四〇年六月一六日代金九七九万三〇〇〇円で競落され、その後右代金は納入された。

二、これより先訴外株式会社埼玉銀行(以下埼玉銀行という)は前記村瀬利一及び奥川商工より前記各物件につき債権極度額二〇〇〇万円の根抵当権の設定を受け、前記出張所昭和三八年一月一八日受付第七三〇号をもつて根抵当権設定登記を経由していたが(債務者は前同様いずれも奥川商工)、原告は同年一一月二一日埼玉銀行より右根抵当権を奥川商工に対する債権と共に譲受け、前記出張所昭和三八年一一月二六日受付第二九二八三号をもつてその移転登記を了していた。

三、そして浦和地方裁判所は、原告及び明和産業の債権届出書に基き、

(1)競売費用一五万五〇〇九円

(2)原告の奥川商工に対する約束手形金元本債権三九七万二三二二円

(3)同遅延損害金債権五六六万五六六九円

(3)明和産業に対する配当なし

との配当表を作成し、昭和四〇年八月二五日午後一時の配当期日に右配当を実施しようとしたところ、明和産業は原告の債権に対し異議を申立て原告との間に異議が完結しなかつた。

四、そしてこれより先昭和四〇年六月二〇日頃明和産業は原告を被告として浦和地方裁判所に配当異議の訴を提起したが、昭和四一年一二月二一日敗訴の判決を受け、更に東京高等裁判所に控訴を申立てたが、昭和四三年五月二九日控訴棄却の判決が言渡され、同年六月一七日確定した。

五、そこで原告は昭和四三年六月二七日浦和地方裁判所に出頭し、原告に配当さるべき合計九六三万七九九一円とこれに対する供託利息金を受領しようとしたところ、同裁判所は右金員を供託せずにそのまま保管していたことが判明した。

六、ところで競売法による競売手続についてはその性質の許す限り強制執行手続に関する民事訴訟法の規定を準用すべきものであるから、競売裁判所は異議のある債権の配当額は民事訴訟法第六三〇条第三項の規定に従い供託すべきものである。

七、従つて、浦和地方裁判所としては明和産業から異議の申立てられた原告に対する配当額九六三万七九九一円はこれを供託すべきであつたにもかかわらず、供託しなかつたのであるから、これにより原告は本来受領しうべき右金員に対する供託規則第三三条所定の年二分四厘の割合による利息を受領することができず、右利息に相当する損害を蒙つたものである。

そして、浦和地方裁判所は、昭和四〇年八月二五日の配当期日に異議が完結しなかつたのであるから、遅滞なく手続をとれば同月中に供託しえたはずであり、また前記配当異議訴訟で明和産業敗訴の判決が確定し原告が配当金を受領すべく裁判所に出頭したのが昭和四三年六月中であるから、原告が得べかりし利息は、供託規則第三三条第一、二項の規定に従つて計算すると、九六三万七〇〇〇円に対する昭和四〇年九月一日から昭和四三年五月三一日まで年二分四厘の割合による六三万六〇〇〇円である。

八、よつて被告に対し、右六三万六〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四三年八月四日から支払ずみとなるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、原告勝訴の判決がなされ、かつ仮執行の宣言がなされた場合においては仮執行免脱の宣言を求めると述べ、答弁として次のとおり述べた。

「一、原告主張の請求原因一ないし四の事実は認める。

二、同五の事実中、浦和地方裁判所が原告に対する配当額九六三万七九九一円を供託せずに保管していたことは認めるが、その他の事実は不知。

三、同六及び七の主張は争う。

四(一)、競売法による競売手続には民事訴訟法第六三〇条第三項の規定の準用はなく、配当につき異議ある場合裁判所は異議ある債権の配当額を裁判所の事件に関する保管金等の取扱に関する規程(昭和三七年九月一〇日最高裁判所規程第三号)に従つて保管しておけば十分なのであつて、これを供託する義務はなく、裁判所が自ら保管するか供託するかはその裁量にまかされているものと解するのが相当である。元来競売法による競売手続に関しては、競売法中に特別の規定がなく、またその性質の許す限りは民事訴訟法の規定を準用すべきであるが、配当に関する規定の準用については大審院は消極的な態度を示してきた。その代表的なものとして昭和一六年一二月五日判決(民集二〇巻二四号一四四九頁)が挙げられる。もつとも、最高裁判所は昭和三一年一一月三〇日判決(民集一〇巻一一号一四九五頁)において、抵当権の実行による不動産競売手続において配当表が作成された場合、異議のある抵当権者は配当表に対する異議の訴訟を提起することができる旨の判断を示したが、右判例は配当に関する民事訴訟法の規定を競売法による競売手続に全面的に準用すべきであるとする趣旨には解せられず、大審院の判例が右最高裁判所の判例によつて変更されたものとみることはできない。従つて浦和地方裁判所が原告に対する配当額を供託せずに自ら保管していたからといつて、右の措置に違法はない。

(二)、かりに競売法による競売手続にも民事訴訟法第六三〇条第三項の規定の準用があるとするのが正しい解釈であるとしても、現在の実務はその準用はないとの解釈に従つて運用されているから、浦和地方裁判所が供託をしなかつたことについては過失がない。」

証拠《省略》

理由

一請求原因一ないし四の事実及び同五の事実中浦和地方裁判所が原告に対する配当額九六三万七九九一円を供託せずに保管していたことは当事者間に争がない。

二ところで、抵当権実行のためにする不動産競売手続において配当異議訴訟が提起された場合に、異議ある債権に対する配当額は民事訴訟法第六三〇条の規定の準用により供託すべきものであるかどうかについて考えてみるに、抵当権の実行による不動産競売手続において配当表が作成された場合、異議のある抵当権者は配当表に対する異議の訴訟を提起しうることは最高裁判所の判例(前記昭和三一年一一月三〇日判決)とするところであり、もつとも右判例は配当異議訴訟と配当完了後の不当利得返還訴訟との両立を認めるのであり、また異議訴訟が提起された場合の配当手続の点には直接触れていないけれども、いやしくも右のような場合に配当異議訴訟の提起を認める以上は、裁判所は民事訴訟法第六九七条第六三三条の規定により配当を実施すべからざるものと解すべきことは当然であり(右規定の準用がないとする被告引用の昭和一六年一二月五日大審院判決は前記最高裁判所の判例により実質的に変更されたものと解する)、そしてその場合には同法第六九七条第六三〇条第三項の規定の準用があるものと解すべきことも亦多言を要しないから、抵当権の実行による不動産競売手続において、少くとも配当表が作成されかつ抵当権者より配当表に対する異議の訴訟が提起された場合には、裁判所は異議ある債権の配当額はこれを供託すべき義務あるものと解するのが相当である。これに反する被告の見解は採用し難い。

従つて浦和地方裁判所が原告に対する配当額を供託せずに保管していたことは違法の処置であるといわなければならない。

三また、この点に関する全国裁判所の取扱は審かでないが、少くともかなりの数の裁判所においてかかる場合に異議ある債権の配当額を供託することなく単に保管していることは成立に争のない乙第一、二号証によつてこれを窺うことができるけれども、既に前記のようにこれを供託すべきものと解すべき以上は、実際上の取扱如何にかかわらず、裁判所に過失が存しないと解することはできない。

四ところで明和産業は昭和四〇年八月二五日の配当期日に先だち同年六月中配当異議の訴訟を提起したのであるから、浦和地方裁判所は遅滞なく手続をとれば昭和四〇年八月中に異議ある債権の配当額九六三万七九九一円を供託することができたものと考えられ(右期間中に供託することができない事情が存したことを認める証拠はない)、そして右配当異議訴訟において明和産業の敗訴判決が確定したのが昭和四三年六月一七日であるから、原告は浦和地方裁判所が右配当額を供託しなかつたことによつて、供託規則第三三条の規定により右配当額より一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた九六三万七〇〇〇円に対する昭和四〇年九月一日から昭和四三年五月三一日まで年二分四厘の割合による利息六三万六〇四二円相当の得べかりし利益を喪失したものということができる。

五よつて被告に対し右金額の範囲内である六三万六〇〇〇円の損害金及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四三年八月四日から支払ずみとなるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用は民事訴訟法第八九条により被告に負担させるが、仮執行の宣言はこれを付する必要なきものと認めてその申立を却下することとし、主文のとおり判決する。(昭和四四年七月一九日 東京地方裁判所民事第一八部)

物件目録《省略》

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